「2013年世界難民の日関西集会」トップページに戻ります

T O P 賛同のお願い 資  料 実行委員会とは

集会報告 過去の集会 他のイベント案内

 「難民認定制度―その社会的機能と日本の実情」の要点筆記
阿部浩己氏の講演
阿部浩己氏の講演

  神奈川大学法科大学院 阿部 浩己 教授による基調講演
 
「難民認定制度―その社会的機能と日本の実情」の要点筆記

  講演レジュメ 「難民認定制度―その社会的機能と日本の実情」
   (阿部浩己氏提供 PDF)

はじめに
  • 難民認定制度を考える上で、基準となるのは1951年に採択された難民条約であり、そこでの難民の定義は日本の入管法(出 入国管理及び難民認定法)の定義となっている。定義の中心的部分は、人種、宗教、国籍、特定の社会的集団の構成員、政治的意見という5つの理由のいずれかにより、迫害を受けるおそれがあるという十分に理由のある恐怖を有し、本国に戻ることが出来ない者、ということであって、これがグローバル・スタンダードになっている。

  • カナダの難民認定は、移民難民審査委員会(IRB)という政府から独立した機関が行っており、高い専門性を有している。レジュメの冒頭に Peter Showler 元委員長の文章を紹介しているが、委員たちがいかに仕事に誇りと責任を抱いているか分かる。認定判断は、外交や政治から独立した立場で、文化や言語の違い、法制度や資料の制約の下で行われるのだが、それには十分な研修・訓練が必要とされる。
    さらにカナダには、行政の働きを建設的に批判するNGOや市民社会の存在がある。あるNGO関係者の“カナダの認定制度がすぐれているのではない、国際水準が低すぎるのだ”という発言は、それを象徴している。
1 難民とは誰か
  • 冷戦終結まで、難民の支配的モデルは旧社会主義国から西側諸国へ逃れる政治活動家・男性であった。西側諸国は、自らのイデオロギーの正当性を訴えるため積極的に難民と認定し、認定率は時に7割~8割にも達した。

  • 1990年代になると、冷戦が終わり、さらに航空便の発達もあって発展途上国から多くの人々が直接到来する事態となった。難民は法を犯す危険な人とみられるようになり、国家の安全保障上の問題として捉えられるようになった。認定手続きは厳格化され、出身国、申請時期、在留資格など様々な要件が問われ、また出国前の審査や公海上での入国阻止も行わるようになった。

  • こうした傾向に対し、研究者、実務家らによって、難民条約の「迫害」概念や「特定の社会的集団」の解釈をより人権フレンドリーなものとし、例えば一人っ子政策関連で「女性」を「特定の社会的集団」と捉えるように、新しい難民モデルを構築しようとする試みが出てきた。これを受入れる裁判所や実務機関があり世界に広がっていった。特に人権・民主主義を守ることが社会の理念になっているカナダやニュージーランドの裁判所、審査機関の功績は大きい。

  • それでは難民でない人をどう考えるのか。
    難民保護の訴えは、その反面にあって、就業機会を求めてくる人は難民ではないので保護する必要はない、というメッセージにもなりかねない。これには二つの考え方がある。
    一つは、難民を特殊化し、国境管理の例外として難民を保護の対象として特別扱いするのがよいという考え方である。これは、主権国家の国境管理権限との妥協をはかるものであり、現実政治に沿った考え方ではある。しかし実際には、その難民でさえ締め出しの対象になり、国境管理はさらに強化されつつある。
    他の一つは、国境の壁じたいを低くするという考え方である。人間の欲求に従って行動することを擁護する考え方であり、人権法の理念に合致している。現在の世界の状況を見るに難しいところがあるが、この考え方が深まっていくことを期待している。
↑Pagetop

2 難民とは誰か~日本の実情

  • 日本は決して単一民族国家ではないにも関わらず、支配的な言説によってあたかも単一民族であるかのように創られてきた側面がある。また中国、朝鮮など不安定な地域が周辺にあり、国境の壁を低くすると、多数の人々が到来する恐れがあるとする。だが近年は、「先進国」の最低限の作法として、外国人や難民をある程度受入れることが要求されるようになっている。多文化主義を避けてとおれないようになっているのだが、日本におけるそれは政府主導の多文化共生にとどまってきた。そこでは、あくまでも社会の安全が優先され、非正規に移動してくる人間は依然として排斥され続けている。

  • 日本の認定機関が想定してきた難民モデルは、「独裁政権を打倒するために政治活動に従事してきた男性指導者」であり、端的にビルマ出身者を対象としていた。しかし、近年ビルマの民主化が進んだことにより、これまでの難民モデルは動揺し、しかも新たな難民モデルは未確立である。
    その要因としては、日本の難民問題に関する学術的貢献が希薄であり、裁判所、入管等の実務機関は人権を重視する制度文化の中になく、また市民社会は脆弱であり、対抗的な難民モデルを確立できていないことがある。
3 難民認定手続きの専門性
  • 2005年から異議申立に難民審査参与員が関わり、3人一組で審査にあたり法務大臣に意見を述べるが、これが実質的な異議判断になっている。難民認定は法律要件を事実にあてはめるだけの作業にみえるが、実際は高度な専門性を必要とする最も難しい作業である。

  • 申請者の供述からどうやって主要事実を抽出するのか。信憑性の評価が決定的な重要性をもつのだが、行ったことのない国、文化や環境の全く異なる社会から来た人、証拠が本人の話だけという場合には、信憑性の評価はひどく難しい。
    ある国で、農村出の女性の大学生が反政府活動に関与したとして拘束された事例で、拘束の事実よりも、農村出の女性が大学へ行くことの方にこだわり、供述の信憑性を誤って判断したことが Showler 氏の本で紹介されているが、これはカナダだけの問題ではない。
    証拠の重みをどう評価するのか、十分な出身国情報を確保できているのかも大切なことである。

  • 信憑性の評価に加えて、法律要件を適切に解釈する能力も必要で、難民概念が広がっていることを的確に解釈に反映しなければならない。以前は、兵役は国家に対する義務であり、良心的兵役拒否者は保護の対象ではないとみなされたが、国際人権法では保護されるものと考えられている。現在の水準に従って要件は解釈されなければならない。非国家主体による暴力や、テロ行為のもつ意味についても、難民性の観点から正しく判断しなければならない。

  • こうした専門性を身につけるためには十分な研修が必要である。研修では、とくに、難民性にかかる核心的な部分を見極め、申請者の周辺的な証言を基に信憑性全体を判断してしまう過ちを犯さないように徹底する必要がある。
4 迅速で公正な難民認定手続きを求めて
  • 2005年に入管法の改正はあったが抜本的なものではない。難民認定は、政府の政治的外交的影響を受けない独立した機関によって行われるべきであるが、現状では独立機関の設置は容易ではない。しかし、現在の制度の枠内でも可能なことの追求として、
     
    • 手続き全体の公開性や処分・決定に関わる者の責任意識を高める
    • UNHCRによる参与員・職員への研修を行う
    • カナダ、オーストラリア等の審査機関との人的交流を拡大する
    • 原審での立会いを認めまた異議申立での代理人立会いを増やし意見書の公開を求める
    • 参与員任命手続きの透明化と業績評価を行う
    • 日本の認定手続きについてのグローバルな場での議論や研究者らによる日本の難民認定実務、参与員制度の調査研究、学術的評価をする
    ことなどがあげられる。
(文責:アムネスティ日本・大阪難民チーム 太田 充亮、中村 彰)

   講演レジュメ 「難民認定制度―その社会的機能と日本の実情」(阿部浩己氏提供 PDF)

↑Pagetop
主催:2013年世界難民の日関西集会実行委員会
共催:大阪大学グローバルコラボレーションセンター(GLOCOL)
後援:公益社団法人アムネスティ・インターナショナル日本
協力:特定非営利活動法人なんみんフォーラム(FRJ)、全国難民弁護団連絡会議、難民ナウ!

事務局:RAFIQ(在日難民との共生ネットワーク) FAX:072-684-0231  Mail:rafiqtomodati@yahoo.co.jp
すべてのコンテンツの著作権は当実行委員会とその関係団体にに帰属します