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● タリバン・ショック アフガニスタンの現実 (08/10/18〜10/22毎日新聞)


※ 掲載写真自体は省略させていただきました。

2008年10月18日(土)付
 武力によるアルカイダ、タリバン掃討が泥沼化し、アフガニスタン政府はタリバンとの和解を本格的に模索し始めた。米軍主導の「対テロ戦」が大きな転換期を迎えつつあるアフガンで、今何が起きているのか。現地から報告する。【ナワバード村(アフガン西部ヘラート州)で栗田慎一】

偽情報に踊る米軍 傷つく「対テロ戦争」 今年8月住民90人誤爆死

 昨年夏、アフガニスタン西部ヘラート州で起きた1件の殺人事件。同国ではありふれた氏族間の対立が原因のこの事件が、1年後、同州ナワバード村を米軍が空爆し、一般住民90人が死亡する「誤爆事件」につながった。

 ◆ ◆
 関係者によると1年前に射殺されたのは、ナワバード村の有力一族の男性。長年、一族と対立し続けてきた隣村の男が殺害に関与したとされ、この男は近くの米軍基地での土木工事などの仕事を失った。その代わりに、被害者側のナワバード村の有力者が、基地での仕事を得た。
 最近、隣村の一族の男が、米軍への「情報提供者」になった。路上の仕掛け爆弾の位置を正確に報告し、米軍の信頼を得たという。そして「ナワバード村に武装勢力タリバンの司令官が潜伏している」と報告した。
 これを受けて米軍は8月21日夕、アフガン政府軍に米地上部隊の後方支援を要請。22日午前1時半、有力者宅で銃撃戦が始まり、ほどなく米軍機による空爆も開始された。
 有力者は遺体で発見され、情報を提供した男の行方は知れない。「タリバン司令官潜伏」との情報の真偽も不明だが、米軍は、仕事を失ったことを逆恨みし、敵対するナワバード村の一族を攻撃させようとした隣村の男の偽情報を信じ込み、有力者の自宅をタリバンの拠点と誤認して攻撃した可能性が極めて強い。
 米軍は事件について、空爆で約30人の武装勢力を殺害、5人を拘束したと発表した。アフガン政府は犠牲者のうち60人は子供だとして「空爆は誤爆だった」と批判。10月に入り米軍は、空爆で一般住民33人が死亡したことを認めたが、武装勢力の拠点を攻撃したとの立場を変えていない。

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 アフガン政府軍幹部によると、米軍は各地で地元住民を情報提供者として使い、敵対するタリバンの情報を集める。だがヘラート州の警察幹部は「米軍は地域の複雑な対立関係を知らない」と指摘。氏族間の争いが絶えないアフガンで、ナワバード村同様の誤認はいつでも起こりうる。
 国際人権団体「ヒューマン・ライツ・ウオッチ」によると、米軍などの空爆による民間人の死者は、06年116人▽07年321人▽08年7月までに119人に上る。カルザイ・アフガン大統領は9月、ニューヨークでの国連総会での演説で「市民の犠牲が増えることで、テロとの戦いの正当性に傷が付く」と厳しく批判した。
 誤爆事件は、米軍が正確な情報も得られないまま、住民を巻き込む恐れのある激しい攻撃をする、「対テロ戦」の危うい現状を浮き彫りにする。

【写真】空爆で兄弟が死亡し、壊れた自宅前で泣き続ける少女たち
【写真】完全に破壊された民家の跡地で、地元警官は「ひどすぎる」と語った。周囲の家は無傷だった=いずれもアフガン西部へラート州ナウバード村で8日、栗田慎一撮影


2008年10月19日(日)付
拉致多発の無法地帯 「模倣犯」がビジネスに

 「軍や警察が介入すれば殺す」。アフガニスタンの上院議員、ワリ・アフマザイさん(40)は今年5月、自宅のあるロガール州を車で移動中、武装勢力タリバンのメンバーに拉致された。
 「なぜ政府側にいる。議員を辞めろ」。銃を突き付けて脅された。解放までの50日間は、恐怖と安堵(あんど)の繰り返しだった。監禁中、ラジオで「タリバン最高指導者のオマル師が『議員を殺害する』との声明を出した」とのニュースを聞き、戦りつが走った。だが次の瞬間、拉致メンバーは「単なる脅しだ」と笑った。
 解放は、地元有力者が軍の介入を制し、医師として地元住民のために働いてきたアフマザイさんの功績を説明し続けたことで実現した。アフマザイさんは「拉致解決に武力は無力だ」と振り返る。

   ◆ ◆
 「人質だったいとこが射殺された」。西部ヘラ
ート州警察本部に今月9日、20歳の男性が飛び込んできた。
 いとこは移住先のドイツから一時帰国中に拉致きれ、身代金50万ドル(約5050万円)を要求され
た。しかしカネをかき集めても4万ドルにしかならない。拉致犯は、要求が満たされないとわかると、その場でいとこの頭に銃弾を撃ち込んだ。「そんな大金が作れるわけがない。いつからこんなむちゃな国になったんだ」。男性は声を震わせた。

   ◆ ◆
 8月、非政府組織「ペシャワール会」の伊藤和也さん(当時31歳)が拉致・殺害されたアフガンではいま、各地で拉致事件が日常化しつつある。要求は外国軍撤退や仲間の釈放など政治的なものから、身代金までさまざまだ。タリバン上層部は身代金要求について「我々の名誉を傷付ける」と否定的だとされる。実際には、身代金目的の拉致の多くが、地元の武装犯罪集団によるとみられる。
 だが、犯罪集団による拉致多発のきっかけを作ったのはタリバン自身だ。昨年7月のタリバンによる韓国人ボランティア拉致事件。巨額の身代金が支払われたとの情報が飛び交い、「犯罪集団が一獲千金を狙って拉致ビジネスに乗り出した」。カブール警察幹部はそう指摘する。
 政権時代、極端な厳罰主義で麻薬や犯罪減少に成功したタリバンも、いまや自身や他の武装集団の犯罪をコントロールできない現実。対テロ戦泥沼化の中でアフガンは無法地帯となりつつある。
 【カブールで栗田慎一】

【写真】「拉致解決に試力は無力だ」と、自らの拉致体験を振り返るアフマザイ上院議員=カブールで6日、栗田慎一撮影

2008年10月20日(月)付
復興進まぬハザラ人地域 政府の和解方針に反発

 アフガニスタン中部パルワン州の西部で9月、路上の仕掛け爆弾が爆発した。通行中の車の4人が死亡した。少数民族ハザラ人が支配する現場一帯は、01年以降テロとは無縁の地域。事件は、この地域にもタリバンが進出し始めたのかと、政府に衝撃を与えた。
 しかし、事実は違った。

  ◆  ◆
 カブールから北部の主要都市マザリシャリフへ向かう幹線道路を1時間、時速100キロで走り、途中で左折すると、山岳地帯の悪路に入った。穴ぼこだらけの道は時速20キロが限界。パルワン州の爆破テロ現場に着いたのは、5時間後だった。
 地元部族の75歳の長老が言った。「この道を来て分かっただろう。タリバンが多い南部は、道路や橋、病院が整備されたのに、ここは何もない。政府に協力してきたのに何という仕打ちだ」
 「犠牲者が出たことは残念だが、この地域の必死の行動だった」。地元有力者は爆破テロが、復興が進まないハザラ人地域に注目を集めるための、地域ぐるみの犯行だったことを示唆した。
 タリバン出身民族のパシュトゥン人は、人口の4割を占めアフガンの最大民族だ。米国はパシュトゥン人地域の安定がタリバン勢力削減に直結するとして国際社会に優先的な復興事業を求めた。
 一方で米軍と協力してタリバン政権を崩壊させた北部同盟は、タジク人、ウズベク人が主流。タリバン後の新政権では主要閣僚を占め、自らの民族居住地域の復興を優先した。少数民族ハザラ人の地域は、復興から取り残された。援助団体によると、パルワン州のこの地域には病院もなく、多くの妊婦が今も出産前後に命を落とす。
 長老によると、地域には90年代前半の内戦時代、タジク人勢力が侵攻し大虐殺が行われた。そして96年のタリバン政権成立後は、タリバンが西隣のハザラ人の拠点バーミヤン陥落を狙って侵攻、数千人が命を落とした。「大地が吸った血の量は、だれも想像できまい。政府がタリバンと和解すれば、我々は政府と手を切る」。長老は言い切った。

  ◆  ◆
 国家よりも自身の民族への帰属意識が強いアフガン。血で血を洗う民族対立の歴史は、相互の根深い不信感を生み出し、政治的安定や治安回復を妨げる。
 地元のハザラ人民兵組織幹部は言う。「政府による組織の武装解除には応じたが、古い武器だけを提出した。代わりに新品を買い、次の侵略からの防衛に備えている」【パルワン州(アフガニスタン中部)で栗田慎一、写真も
アフガン主要民族のおもな居住地域(毎日新聞) アフガニスタンの民族構成(米中央情報局資料―毎日新聞)

【写真】「タリバンはあの山の向こうから侵攻してきた」。カブールの方向を指さすバサラ人民兵組織司令官=アフガニスタン中部パルワン州で11日

2008年10月21日(火)付
ヘロイン加工国へ変貌 国内の貧困層むしばみ

 戸別訪問で麻薬の害毒を説き続ける政府関連団体職員、ナウロジャーさん(30)は8月、カブール西部の自宅でヘロインを吸引していた母子4人を見つけた。4人は03年にイランから帰国した帰還難民だ。親類宅の一室を間借りしている。
 母マフトップさん(25)は難民時代にヘロイン中毒となった夫に勧められた。「貧しく、苦しい生活を忘れることができた」。マフトップさんは言う。
 「ある日、夜泣きする子供に与えたら泣きやんだ。むずかる子供に吸わせたら、機嫌を取り戻した」。以後、子供たちにも時折分け与え、一家で1日1グラムを消費する。害毒は知っているが、「やめたら体がばらばらになる」とやめられない。
 1グラムの値段は、路上で靴を売る夫の1日の稼ぎと同じ3ドル。生活は借金まみれだ。
 「教育の遅れが、麻薬のまん延につながった。国や国際社会は麻薬栽培の根絶に力を入れているようだが、消費や患者対策はほったらかしだ」。ナウロジャーさんはため息をつく。

  ◆  ◆
 国運によると、ヘロインの原料となるケシは、世界全体の9割がアフガンで栽培されている。今や麻薬ビジネスは国内総生産の半分近い40億ドル(約4040億円)を稼ぎ出し、経済の大きな根幹をなしてしまった。
 ケシ栽培は90年代、軍閥が資金源として奨励。
00年にタリバン政権が禁止し一時的に減少したが、タリバン政権崩壊後は再び増加。政府や米国は「麻薬はタリバンの資金源」と根絶を目指すが、麻薬に頼る経済構造は、タリバン後に強まったものだ。
 「今は、政府関係者、地元部族勢力、タリバン
などが入り乱れ、国際犯罪組織と結託して麻薬ビジネスに群がっているのが実態だ」。麻薬対策省幹部は指摘する。

  ◆  ◆
 アフガン国境警備隊幹部が言う。「パキスタンやイランの国境付近の国内にヘロイン加工場が乱立している。わが国はケシ生産国からヘロイン加工国へ変貌している」。ヘロインの一部は国内にも出回り、貧困層の心身をむしばんでいく。
 国際治安支援部隊(ISAF)は麻薬の製造、流通を阻止するための軍事作戦に踏み切ることを決めた。だが現金収入を失う農民の強い反発も予想される。「麻薬大国」からの脱却の見通しは立たない。
【カブールで栗田慎一、写真も】

アフガニスタンのケシ栽培面積(国連などの資料―毎日新聞)

【写真】ヘロインを子供3人にも吸わせているというマフトップさん(右から2人目)。子供たちは5歳から9歳だ=カブール西部で

2008年10月22日(水)付
幹部が「復活」を豪語 「我々に付くか、米国か」

 胸まで届く長いあごひげ。黒いターバン。「民間人を装って1人でここへ来た。銃は持ってきていない」と話すタリバン幹部の男(33)は、アフガニスタン中部のある場所で、毎日新聞の取材に応じた。

  ◆ ◆
 「タリバンはこの7年間、多くのことを学んだ。
(政権にあった)90年代とは違う」。男はそう切り出した。
 96年に首都カブールを攻略したタリバンは、内戦に苦しむ国民の支持を得て政権を構築した。しかし「行政、渉外能力は乏しく、国際的な孤立につながった」と振り返る。
 男によると、最高指導者のオマル師は政権崩壊後の02年、軍事委員会と政治委員会を新設し、それぞれ10人のメンバーを選出した。軍事委は、パキスタンの武装勢力や中東、中国のイスラム勢力
との関係を構築。政治委は、イスラム諸国との交渉窓口を築いた。
 二つの委員会は、パキスタン南西部クエッタに拠点を置く。ただし「オマル師はアフガンにいる」という。
 一方、国内では、カンダハル、ヘルマンドなど
南部から東部にかけてのタリバンの影響力が強い各州に、「影の政府」とも呼べる独自の行政組織を整備している。州ごとに両委員会直属の知事を任命。その下に「地区委員会」が置かれ、地域の武装集団を統括する。
 現在、北部などでも「影の政府」設置を進めており、「近くカブール以外の全土にタリバン政府が根を張る」と豪語する。
 アフガン政府はいま、本格的にタリバンとの和解を模索し始めている。だが男は「(政府とタリバンの)妥協は困難だろう」との見通しを示した。
 「オマル師は純粋なイスラム国家建設を目指しており、外国軍の駐留や現憲法は認めない。政府は和解したいのなら、米国か我々のどちらかを選ばなければならない」

  ◆ ◆
 「我々の側に付くか、それともテロリストの側に付くか」。01年の米国同時多発テロ事件後、ブッシュ米大統領は世界にそう迫り、アフガンでの対テロ戦を開始した。だが目的の国際テロ組織アルカイダ壊滅は果たせず、タリバンは勢力を回復した。
 いま、タリバンは、ブッシュ氏と逆の要求をアフガン政府と国民に突き付ける。出口を失い、出発点に逆戻りしつつある対テロ戦。間もなく選ばれる米国の新大統領は、この現実にどう向かい合うのか。【カブールで栗田慎一、写真も】
【写真】毎日新聞の取材に応じたタリバン幹部=アフガニスタン中部で14日
【図】タリバンの組織図(省略)

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